探偵小説 特に記載のない物は廣済堂文庫・山田風太郎傑作大全で
「下山総裁」☆(後藤さんに送っていただきました)98.11.23
『天国荘奇譚』(廣済堂文庫・山田風太郎傑作大全)98.7.27
「恋罪」「寝台物語」やなんかは陰惨ですが、おおむねおちゃめ系山風という印象の一本。
『帰去来殺人事件』☆(出版芸術社)98.7.21
「西条家」を除いてあとは動機は復讐が目立ち、概して暗い舞台も相まって探偵小説〜という感じです。
『赤い蝋人形』☆(廣済堂文庫)98.3.17 実際の事件をモデルにした電車火災事故から始まる少女小説の旗手な女流作家の謎を描く表題作、プロバビリティーの犯罪を扱った「賭博学体系」、吝嗇な古本屋あがりの金貸しに利子を払う代りに養えと連れてこられた金貸しの妾にはまってしまう小説家のお話「美女貸し屋」、終戦直後、金を払った街娼(ともみえない美人)が人妻としておさまってんのを見て悪心起こしちゃった保険屋のとほほなお話「とんずら」、むちゃくちゃ後味の悪いお話「わが愛しの妻よ」(『極悪人』にも)、岡ぼれした娘が強姦されたと行方をくらましちまい、その復讐に犯人の妻や娘(かもしんない)女性たちを強姦することを志してしまう困ったお話「痴漢H君の話」、うっかり成功したばかりに親戚縁者からぶらさがられる工場主がキレるお話「ダニ図鑑」収録です。
『天使の復讐』☆(集英社文庫)98.3.17 同タイトルの短編集が廣済堂からも出てますが、こちらは「狂風図」、表題作、「色魔」「鬼さんこちら」「飛ばない風船」「知らない顔」収録の山風ミステリ集です。 近所のらんぼー者にレイプされちまった妻から発して「正論」が変質し破れていく様を描く「わが愛しの妻よ」、老若マスオさんの心理「この道はいつかきた道」、売れない作家が取材のために真の「極悪人」をさがしてさまよう表題作、若いころいいなと思っていた相手とばったり旅先で再開したことから始まるどろどろな悲劇「吹雪心中」、なんでここに入ってるのか誰にもわからない関ヶ原を舞台に繰り広げられる忍者達の反間苦肉「天下分目忍法話」、慈善家なおばさんのやらかしたささいな出来事が雪だるまにふくらまっていく「環(わ)」とみすてりな山風の一冊。犯罪も出てきますが、どっちかっつーと悪をやらかしちゃう人間の心理が主軸です。
『満員島』☆(春陽堂・長編探偵小説全集 S31)98.2.5 たぶんハルキ文庫&廣済堂文庫でだいたいゲットできる内容です。人口調節のために開発された制欲帯のスラップスティックな大騒ぎの表題作の他に、はなれ切支丹で、骨がただ軟化していく奇病にかかった娘との愛欲図「蝋人――新牡丹燈籠――」、アプレな戦後の聖処女の物語「新かぐや姫」、国電の車両炎上事故に巻き込まれた編集者が見た高名な少女小説家をめぐる悲劇「赤い蝋人形」、戦争終結まぎわの疎開中の医学生たちの心理闘争を描いた「狂風図」、手記の中に埋め込まれた手記で展開される「死者の呼び声」、プロバビリティの殺人を犯したはずの犯人のその後の心理を描く「ノイローゼ」収録です。 みもさんからご教示いただいて読んでみました。いわゆるリレー小説って奴です。メンツは香山滋(『ゴジラ』の原作者として有名)、島田一男、山田風太郎、楠田匡介(よくわからん)、岩田賢(よくわからん)、高木彬光です。夜道を歩いてた画学生がふと路上に投げ落とされた血まみれの白薔薇に引かれて無人のビルに上がってみると、若い女の死体がっという発端に始まり、すちゃらかに展開されていきますです。山風のパートは謎をあおる部分なのですが、たんたんと山風です。オチはいきなり某探偵が出てきてちゃっちゃとまとめてしまうよくわかんないノリ・・・。香山滋と山風と島田一男って宝石同時デビューだったみたいです。ああああ、しかし、この香山全集くらいに作品まめに収録して資料を十分校訂した山風全集欲しいですよ(滝涙)
『妖異金瓶梅』☆☆☆(大日本雄弁会講談社・S29発行)98.1.29(こちらに廣済堂文庫版へのレビューがあります) さすがにうちの大学図書館にも山風新ネタが尽きてきたぜと思っていたら、じつわ上の方にひっそりありました『妖異金瓶梅』!!しかもこんどわ毛筆による献呈入りだあ
『奇想ミステリ集』☆(講談社文庫・大衆文学館)97.11.30 主に昭和20年代後半に発表された探偵小説系作品集です。トリックとかそゆのより、心理の動きがメインですね。なんだかアプレなご時世を背景にした「新かぐや姫」「二人」、夫婦/男女間の無限後退していく心理を材にとった「女妖」「ノイローゼ」「墓掘り人」「笛を吹く犯罪」「不死鳥」、軽いコントって感じの「露出狂奇譚」「祭壇」、昭和版「国貞源氏」かもしんない「春本太平記」、子供の心理をつかった「青銅の原人」「目撃者」、そして盲目の女性を使ってアリバイ偽造物だけど、ラストでうれしくたまげざるをえない「司祭館の殺人」と妙にもりだくさんな気のする短編集です。さすがに「虚像淫楽」「眼中の悪魔」などの圧倒的な完成度にはいささか及ばずというところですが、この系の山風がお好きな方には十分楽しめる一本です。
『男性滅亡』(ハルキ文庫)97.11.12 セックスネタナンセンス小説「男性滅亡」「男性周期率」、SFなのかなあな「1999年」、男性性欲ネタのコント「自立神経失調同盟」、記憶喪失なヒロインをめぐる六人の男のミステリ「誰も私を愛さない」でやんす。最初の3編はちとだるいか。やっぱ山風の奇想は歴史につっこんでこそ走るかっつー感慨もないわけでもないですね。「誰も私を愛さない」はヒロインが誰なのかという興味で読ませる形式ですが、冒頭のシーンでわりとわかります。でもどんでんありますのでご安心をば。(これってネタバレ?)
『太陽黒点』☆☆(講談社・山田風太郎全集15巻 廣済堂文庫)97.11.3 そのむかし〜、なんか太陽族ちゅーのが流行ったらしいんですが、その戦後のそれなりにちょこざいな希望をもってなんだか享楽している若人VS陰惨戦中派、というところ。推理味は薄いです。あんまり書くとねたバレになりますが、主人公なカップルの他の可能性はいくらでもあるのにどんどこ狭窄して追い詰められていく心理の動きなんかはさすが山風。
『厨子家の悪霊』☆☆☆(ハルキ文庫)97.9.7 探偵小説家山田風太郎の魅惑てんこ盛りの短編集
『怪談部屋』☆☆(出版芸術社)97.9.7 あんま怪談じゃないんすけどね・・・、他SFから綺談からコミコミなジャンルとしての「探偵小説」短編集。その意味で『跫音(あしおと)』とネタかぶってますが、男体の神秘☆なスラップスティック「陰茎人」、お話はしょーもないっちゃあしょーもないけどこのタイトルの前には沈黙せざるをえない「うんこ殺人」、すげー変な展開なのに叙情的という乱歩の味のある「蝋人」収録というところでお買い得か。まあSFもどきあんま面白くないんすけどね(汗)。推理小説著作リスト付き
『十三角関係』☆☆☆ 戦後の一応落ちついてきだけどまだまだダークな東京が舞台。猟奇なオープニング、すごみの入った犯人の動機、トリックやら中盤のミスリーディングやらどこをどうとっても第一級の探偵小説。茨木歓喜シリーズの代表作(他に『帰去来殺人事件』など)にして山風長編推理小説の最高峰といえましょう。よしのさんは探偵小説好きを自認しながらこの年まで読んでいなかったことを深く恥じております。講談社ノベルス『甲賀忍法帖』解説で有栖川有栖も絶賛☆
『妖異金瓶梅』☆☆☆ 金瓶梅ワールドに材を取った連続短編。富豪にして絶倫さんな西門慶と様々なタイプの美貌な夫人達。しかーしなぜか怪奇かつ不審な死が相次いでいきます。西門慶の友人にして半分太鼓持ちの応伯爵は謎をとくのですが・・・
『誰にでもできる殺人』☆☆ 連続短編型。「女をさがせ」「殺すも愉し」「まぼろしの恋妻」「人間荘怪談」「殺人保険のすすめ」「淫らな死神」でございます。「人間荘」(すごい名前だ・・)という安アパートの一室の押入の奥に押し込まれた一冊のノートに代々の間借り人によって書きつがれた物語。殺人あり、事故ありと不穏な「人間荘」に隠された秘密とわ・・・。
『棺の中の悦楽』☆(講談社文庫コレクション・大衆文学館) いわゆる一つの異色ミステリーってやつです。変ないきさつから横領犯に現金1500万円(初出はS36年ざます)預けられた脇坂篤。初恋の女を忘れかねてどうにもすすけた生活送っていたのだけれど、まあ人生色々ありまして、横領犯が出所するまでにきれいに金を使い果たして死んでやろうということになりました。というわけで半年の期限を切って、三年間で六人の女と所帯をもってみるのですが・・・というお話。惚れ方間違えるとかくも人生ひずんでしまうかというところ。関川夏央のエッセイと縄田一男の「人と作品」つき。
『青春探偵団』☆ 「幽霊御入来」「書庫の無頼漢」「泥棒御入来」「屋根裏の城主」「砂の城」「特に名を秘す」の六作品。すべて同一舞台&登場人物で、北国らしき地方の高校生の「殺人クラブ」の活動&冒険でやんす。そんなにむちゃくちゃ面白いわけではないけど、高校生の他愛ない生活は楽しいっす。天国荘が出てきたりもしますが(「屋根裏の城主」)、浜辺で高校生が「森の木陰でどんじゃらほい」を踊り狂うシーン(「砂の城」)があるのがむちゃむちゃ不思議。
『跫音(あしおと)』(角川ホラー文庫) ホラー文庫となっていますが、昔の新青年系のホラーと言うより奇談というかミステリというか、当時はええかげんにも「探偵小説」と呼ばれておったような作品集というところ。収録作は、飛行機墜落事故を素材にした「三十人の三十時間」、東京大空襲の運命な夜が蘇る「さようなら」、死刑執行前の心理描写のしつこさが出色「女死刑囚」、人のよさゆえに罪を犯した男の崩壊な表題作、山陰の旧家で絵師と呪われた絵をめぐる謎といえばどろどろなのに妙に軽い味わいの「雪女」、この辺が新青年テイストなサーカスは空中ぶらんこ乗りの毒婦のお話「笑う道化師」、めっぽう色っぽい女給をめぐる男たちの蠢動「最後の晩餐」(これイチ押し)、なんか書くとネタバレになってしまうので何も書けない(笑)「呪恋の女」です。解説は山風愛好家として名高い菊地英行。
『夜より他に聴くものもなし』(廣済堂文庫・山田風太郎傑作大全) 靴底すり減らし系の刑事さんが主人公の連作短編です。結末はどれも同じ言葉で終わるというひねった造りになっているのですが、若干それが暴走して、そのセリフを言えない相手に向かって言っちゃったりしてるのは、作品内のリアリティの構築が非常に丁寧な風太郎先生らしからぬ手落ちです。なぜかヴェルレーヌの詩からとったタイトルかっこいいし、そこそこの作品も入ってるんですけどでも全体としては勧めるわけにはいかないです。
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