明治/幕末 明治物はちくま文庫でゲット!


『明治十手架』☆☆(上下・ちくま文庫)98.5.12

元与力で明治初のキリスト教教誨師兼出獄者サポート事業を展開していた原胤昭が若き日の思い出を語るというお話です。懲役場と化した石川島寄場の地獄ぶりに謎の死をとげた十手術の師匠の遺児姉妹お夕・おひろを守り、クリスチャンである彼女たちが志す出獄者保護を銀座で絵草紙屋をしながらはじめる胤昭ですが、極悪な警官&看守と張り合いつつ、与力時代に知りあった変幻自在の化け師の秀・毒婦な邯鄲お町(上下巻とも表紙はお町のようでげす)・掏摸のぬらりひょんの安・暴れん坊アラダル・強姦恐喝サルマタの直熊といった凶悪犯を受け入れ、更生させようとするのですが、いちまつ与力根性が抜けていない若さゆえに対応をしくじってしまったりします。ところで執念深い警官&看守たちは胤昭が自由党に肩入れして会津自由党の面々を賛美する出版物を出したのをきっかけに、石川島に送り込み、5人の凶悪犯を使ってお夕・おひろ姉妹ともども始末しようといたしますが・・・という波乱万丈なお話。
下巻にはロシア皇太子暗殺未遂事件で犯人を取り押さえて英雄扱いされるわ年金たんまりもらっうわと運命が変転していく2人の車夫のお 話「明治かげろう俥」、留学中の漱石VSホームズで推理小説「黄色い下宿人」収。


『明治波涛歌』(上・下)☆☆(河出文庫・ちくま文庫)98.3.14

上巻に咸臨丸に乗り組み、明治政府とあくまで戦おうとする幕臣の最後の決断を描く「それからの咸臨丸」、巴里を舞台に暗闇な警視川路さん(『警視庁草紙』参照)が探偵役で豪華証人陣搭載のミステリー「巴里に雪のふるごとく」(山風自己評価高し)、自由党残党多摩地方+南方熊楠「風の中の蝶」、下巻に決闘にまつわるミステリを「舞姫」エリスが解く「築地西洋軒」、樋口一葉VS南洋人買いおやぢ「からゆき草紙」、野口英世が川上貞奴に恋をする「横浜オッペケペ」収録です。
「巴里に雪のふるごとく」「築地西洋軒」はミステリとしてもイチ押し。


『旅人 国定龍次』☆(廣済堂文庫・山田風太郎傑作大全)98.1.25

幕末旅人系です。「大谷刑部は幕末に死ぬ」で登板した国定忠治の遺児の腹違いの弟・龍次のお話です。
「大谷刑部」に同じく薩摩な浪人とかに巻き込まれててんやわんやの目に合う渡世人、という枠組みのお話ですが、渡世人や香具師の世界の書き込みが多く、町火消やら次郎長やら謎の蛇つかいやら新撰組やら西郷さんやら色々出てきて飽きさせない構成になっています。龍次の用心棒になる薩摩浪人「ヒゲ万先生」もただのオルグ野郎を越えて造形されていい感じです。


『侍よさらば――江戸・明治元年』☆(毎日新聞社/『修羅維新牢』・廣済堂文庫・山田風太郎傑作大全)97.12.15

進駐軍然と江戸に乗り込んできた薩軍。しかーし、相当の手だれとおぼしき手で個別的にテロられてしまいます。んでぶち切れた薩軍は、旗本だろおってんでアバウトに旗本10人捕まえて、犯人が名乗り出るまで一日一人公開処刑っす。んでその10人の捕まえられる直前までの経緯+オチという体裁のお話。連作長編なのかな。
10人分性格やわけわかんない経緯を設定してならべてと単純にいっても、そのバリエーションは山風ならでわの一本です。


『ラスプーチンが来た』☆☆☆(ちくま文庫・山田風太郎明治小説集)97.11.3

ラスプーチンがきちゃうんですよ(汗)ってーそのまんまですが、日露戦争の時にヨーロッパでレーニン他ロシア革命勢力に金ばらまいてロマノフ朝弱体化に尽力したとゆー明石元二郎(まだ陸大生)を中心に、乃木一家やら、内田鑑三やら二葉亭四迷やら谷崎潤一郎やら相変わらず豪華キャストでお送りしております。元二郎君の暴れん坊ぶりは痛快☆明治物としては地味目かもしんないですが(こんな派手な話が地味に映る山風って・・・)地味は地味でもいぶし銀かもです。


『明治断頭台』☆☆(ちくま文庫)97.10.10

ほんとに明治初年の、弾正台(検察特捜部みたいな官僚犯罪を扱うところ)での若き日の川路さん(『警視庁草紙』『明治波涛歌』参照)&フランス帰りなのに水干烏帽子姿でうろついて、桧扇で強盗打ち伏せちゃったりする香月経四郎&香月にくっついてやってきたパリの処刑人の末裔エスメラルダが大活躍。機械トリックを中心にした連作短編で「怪談築地ホテル館」のトリックはなかんづくグレートです。機械トリックってあたくしあんまり評価しないのですが、実在した建物を元にトリック組んでこのレベルとは、探偵小説家・山田風太郎はやはりあなどれないっす。推理小説好きには☆☆☆ですな。


『おれは不知火』(河出文庫)97.10.2

維新編でございます☆
志なかばにして暗殺された佐久間象山の息子の右往左往敵討ちに材をとった表題作、桜田門外の変で落とされた井伊直弼の首が二転三転する「首」、バカ入ってるかもしれない情理の同心の悲劇「笊ノ目万兵衛門外へ」、大魔神ほにゃららにおバカな旅人あがりの「志士」が使い捨てられるお話「大谷刑部は幕末に死ぬ」、世話物調の明治最初の絞首台製作「絞首刑第一番」収録
表題作の、山岡門下の四天王といわれるくらいつおいのに、なぜか新内もうまい村上俊五郎はうまく気合いぬけててらぶりーです。


『明治忠臣蔵』☆☆(河出書房文庫)97.10.2

明治物短編です。 表題作は相馬騒動明治版。「東京南町奉行」はよしのの結構好きな短編です。天保の改革で大弾圧繰り広げた南町奉行鳥居甲斐が「東京」に見たものは・・・というところ(『忍法黒白草紙』参照)。「天衣無縫」は、広沢暗殺事件で取り調べられる愛妾おかね対明治司法権力☆(『警視庁草紙』参照)。「首の座」は、オープニングでまずぞくぞくさせておいて『葉隠』なんかぢゃどーしようもない人間の最後の悪あがき。「斬奸状は馬車に乗って」は、もう少しで志士になるはずだったのになんかかけちがっちゃったある一生。「明治暗黒星」は、山風愛好家にはおなじみの星亨。
「天衣無縫」を除けば、英雄になりそこなった人間がなんとなく共通するテーマかなと思います。むちゃくちゃ陰惨だったりするのにカラっとしてるのはこれまた先生の芸風でございます。


『伝馬町から今晩は』☆☆(河出文庫・山田風太郎コレクション)97.9.20

幕末物短編集でやんす☆明治物の書き方ですね
金貸し一代記を題材に幕府体制の終わりっつーか新時代の息吹な「からすがね検校」、シーボルトの弟子を材にとった「芍薬屋夫人」、小才子の憂国対人生単純行動あるのみ炸裂バカ「獣人の獄」、ラストシーンにほにゃららがいきなり出てくる日本共同体の陰惨さ「ヤマトフの逃亡」、高野長英ネタ「伝馬町から今晩は」収録。特に「からすがね」と「伝馬町」は山風節炸裂の高レベル☆
あえて一本線を見つけるとするなら、馬鹿ネタでしょうか。「からすがね」は、柳生家のような「家」を守って安泰めざしてりゃいいご時世では全然なくなっていることに気が付かない馬鹿の話、「獣人の獄」は憂国ごっこやっているうちに内ゲバ陰謀ごっこにしか頭が回らなくなってしまった馬鹿に由緒正しきバカが鉄槌な話、「ヤマトフ」はちまい共同性によっかかって陰湿に生きてる馬鹿と、そいつらがどこまで尊厳捨てた馬鹿になってしまえるかを一抹想像しえなかったバカの話、「伝馬町」はバカが魔人と化せばどこまで残酷になれるかわかってなかった馬鹿の話ですね。馬鹿バカうるさいですがご容赦。


『警視庁草紙(上・下)』☆☆☆(河出書房文庫・ちくま文庫)

よしのが読んだ明治物の中ではもっともゴージャスかつグレートな逸品。明治初年を舞台に元町奉行駒井相模守(「隅のご隠居」名乗ってるのはオルツィですかね)+おっちょこちょいな元同心千羽兵四郎が明治新政府の警察庁・川路大警視&元新撰組だったり朝敵仙台藩出身だったりする手だれの巡査達、および払い下げで私腹こやすわ狼藉乱暴元老たちにいやがらせしつつ、暗殺やら謀殺やら復讐などいろんな事件に巻き込まれます。ゲストキャラなみなさん方も定番漱石から東条ぱぱまで超豪華でございます。わき役陣も老掏摸「むささびの吉五郎」なんかもいい味出してます。陰謀やら大詐欺事件やら間抜け話やらてんこもりに楽しめる連作短編。推理味も濃淡はいってます。
円朝登板「明治牡丹燈籠」、川路さん登場の「黒暗淵(やみわだ)の警視庁」、私娼狩りから色々出てくる「人も獣も天地の虫」、山風「耳なし芳一」かもしんない「幻談大名小路」、明治最初の写真師下岡蓮杖登板「開化写真鬼図」、びんぼーに耐え兼ねた剣士達が試合を見世物にする「残月剣士伝」、明治初年の銀座登場「幻燈煉瓦街」、不可能状況の大量毒殺発生!「数寄屋門外の変」、牢獄の中で処刑前の死刑囚が殺される「最後の牢奉行」までが上巻で、下巻は広沢参議暗殺事件「痴女の用心棒」(「天衣無縫」参照)、若き森鴎外が恋をする「春愁・雁のゆくえ」、「痴女の用心棒」後日譚「天皇お庭番」、「妖婦」お伝の生涯一度の恋「妖恋高橋お伝」、政府転覆壮士と川路大警視の駆け引き「東京神風連」、むささびの吉五郎島暮らし時代のお話「吉五郎流恨録」、初の馬車による東海道縦断ハネム〜ン「皇女の駅馬車」、奇策てんこもり「川路大警視」、そして第一話冒頭との照応ぶりも恐ろしい涙の最終話「泣く子も黙る抜刀隊」。
兵四郎は元幕臣の娘の芸者・お蝶のひもになっているので多少女っけはありますが、『魔界転生』の十兵衛様(愛)のテイストあります。十兵衛ファン要チェック。


『幻燈辻馬車』☆☆☆(河出書房文庫・ちくま文庫)

会津で同心やっていた干潟干兵衛は、西南の役で戦死した息子の忘れ形見をのっけて辻馬車屋をやっております。それが妙に自由党とかかわりあっちまい、警視庁の密偵やら会津をずたぼろにしつつある三島県令の手下やらとやりあう羽目になってしまうのですが、その孫が呼べば息子の幽霊が、息子の幽霊が呼べば会津落城の時に死んだ妻の亡霊が出て来るという明治の人々がてんこもりにでてくるだけではない連作短編集。平均的なまとまりやら統一性は『警視庁草紙』より上かも。おもしろかったっす。


『エドの舞踏会』☆(河出書房文庫・ちくま文庫)

明治元老の奥さん達をあつかった連作短編。「序曲・鹿鳴館への誘い」にはじまって「井上馨夫人」「伊藤博文夫人」「山県有朋夫人」「黒田清隆夫人」「森有礼夫人」「大隈重信夫人」「陸奥宗光夫人」「ル・ジャンドル夫人」「終曲・鹿鳴館の花」です。花柳界出身だったり、落魄した大名の息女だったりいろいろな境遇の夫人たちが、それぞれの状況の中で生きていく切片をちりばめた名品でやんす。人生気合いが肝心やねというのが読後感。


『地の果ての獄』☆(文芸春秋社・ちくま文庫)

親戚が幕末の江戸で西郷隆盛ヒミツ部隊御用盗の立役者だったばっかりに、維新後なにやら肩身の狭い思いをしなきゃなんないのがたるくて北海道は樺戸監獄の看守になった有馬クン。意のままに牢を抜ける「牢屋小僧」やらヘンな囚人に人斬り楽しくってしかたねえヘンな看守、アイヌに同化したおっさん、横車押しまくり国家権力自分のもんだと心得てやがるヤナ高官に振り回されつつ、なんだか成長していくです。明治初年監獄物長編としては原胤昭(元与力にして牧師となり、出獄者のサポートに尽力した人)が主人公の『明治十手架』もありますが、こっちの方が読み物としては面白いかも。


『明治バベルの塔──万朝報暗号戦──』☆☆(新芸術社・ちくま文庫)

短編3本入り。一番面白かったのが「牢屋の坊ちゃん」。日清戦争講話会談の時に清国代表を狙撃して無期をくらった小山六之助の手記から、往事の監獄体験を漱石『坊ちゃん』の文体で描いた物。他に表題作・明治版『人間臨終図鑑』かもしんない「いろは大王の火葬場」「四分割秋水伝」+レアな著者解題収録。外さない短編集です。


『魔群の通過──天狗党叙事詩』☆☆☆(文春文庫・ちくま文庫・廣済堂文庫)

なにやら風雲急を告げるプレ幕末に、黄門様以来の水戸学ついだ尊皇アナーキストVSコンサバ幕府支持派の対立から内乱状態になってしまった水戸藩。山ん中に立てこもった尊皇派天狗党千人は、追いつめられたあげくに「京へ行って天子さまにおめにかかる」と電波少年みたいなことを思いついたばっかりに、気合いと運だけで信濃やらことさら寒くてつらい冬の山を大砲まで抱えて越えていきやすが・・・。山風の中では異色作という印象もありますが、テーマも山風の視点もむちゃむちゃ重いけど、少年の視点から描く語りが成功した広く本読みにお勧めできる傑作。
風太郎先生のお作のバカはさわやかバカが多いんですが、「十兵衛様についてく」とか「己の忍法もっと試したい」とか具体的に目標設定したバカは強いが、イデオロギーによっかかってしまったバカには救いようのない悲劇しか待っておりませんでやんす。南無南無。若年寄の妾兼元志士の恋人であるおゆんというねーちゃんは気合いが入っています。はっ、ここでもやはり女は偉いのか?

 

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