明治/幕末 明治物はちくま文庫でゲット!
元与力で明治初のキリスト教教誨師兼出獄者サポート事業を展開していた原胤昭が若き日の思い出を語るというお話です。懲役場と化した石川島寄場の地獄ぶりに謎の死をとげた十手術の師匠の遺児姉妹お夕・おひろを守り、クリスチャンである彼女たちが志す出獄者保護を銀座で絵草紙屋をしながらはじめる胤昭ですが、極悪な警官&看守と張り合いつつ、与力時代に知りあった変幻自在の化け師の秀・毒婦な邯鄲お町(上下巻とも表紙はお町のようでげす)・掏摸のぬらりひょんの安・暴れん坊アラダル・強姦恐喝サルマタの直熊といった凶悪犯を受け入れ、更生させようとするのですが、いちまつ与力根性が抜けていない若さゆえに対応をしくじってしまったりします。ところで執念深い警官&看守たちは胤昭が自由党に肩入れして会津自由党の面々を賛美する出版物を出したのをきっかけに、石川島に送り込み、5人の凶悪犯を使ってお夕・おひろ姉妹ともども始末しようといたしますが・・・という波乱万丈なお話。
『明治波涛歌』(上・下)☆☆(河出文庫・ちくま文庫)98.3.14 上巻に咸臨丸に乗り組み、明治政府とあくまで戦おうとする幕臣の最後の決断を描く「それからの咸臨丸」、巴里を舞台に暗闇な警視川路さん(『警視庁草紙』参照)が探偵役で豪華証人陣搭載のミステリー「巴里に雪のふるごとく」(山風自己評価高し)、自由党残党多摩地方+南方熊楠「風の中の蝶」、下巻に決闘にまつわるミステリを「舞姫」エリスが解く「築地西洋軒」、樋口一葉VS南洋人買いおやぢ「からゆき草紙」、野口英世が川上貞奴に恋をする「横浜オッペケペ」収録です。
『旅人 国定龍次』☆(廣済堂文庫・山田風太郎傑作大全)98.1.25 幕末旅人系です。「大谷刑部は幕末に死ぬ」で登板した国定忠治の遺児の腹違いの弟・龍次のお話です。
『侍よさらば――江戸・明治元年』☆(毎日新聞社/『修羅維新牢』・廣済堂文庫・山田風太郎傑作大全)97.12.15 進駐軍然と江戸に乗り込んできた薩軍。しかーし、相当の手だれとおぼしき手で個別的にテロられてしまいます。んでぶち切れた薩軍は、旗本だろおってんでアバウトに旗本10人捕まえて、犯人が名乗り出るまで一日一人公開処刑っす。んでその10人の捕まえられる直前までの経緯+オチという体裁のお話。連作長編なのかな。
『ラスプーチンが来た』☆☆☆(ちくま文庫・山田風太郎明治小説集)97.11.3 ラスプーチンがきちゃうんですよ(汗)ってーそのまんまですが、日露戦争の時にヨーロッパでレーニン他ロシア革命勢力に金ばらまいてロマノフ朝弱体化に尽力したとゆー明石元二郎(まだ陸大生)を中心に、乃木一家やら、内田鑑三やら二葉亭四迷やら谷崎潤一郎やら相変わらず豪華キャストでお送りしております。元二郎君の暴れん坊ぶりは痛快☆明治物としては地味目かもしんないですが(こんな派手な話が地味に映る山風って・・・)地味は地味でもいぶし銀かもです。
『明治断頭台』☆☆(ちくま文庫)97.10.10 ほんとに明治初年の、弾正台(検察特捜部みたいな官僚犯罪を扱うところ)での若き日の川路さん(『警視庁草紙』・『明治波涛歌』参照)&フランス帰りなのに水干烏帽子姿でうろついて、桧扇で強盗打ち伏せちゃったりする香月経四郎&香月にくっついてやってきたパリの処刑人の末裔エスメラルダが大活躍。機械トリックを中心にした連作短編で「怪談築地ホテル館」のトリックはなかんづくグレートです。機械トリックってあたくしあんまり評価しないのですが、実在した建物を元にトリック組んでこのレベルとは、探偵小説家・山田風太郎はやはりあなどれないっす。推理小説好きには☆☆☆ですな。
『おれは不知火』(河出文庫)97.10.2 維新編でございます☆
『明治忠臣蔵』☆☆(河出書房文庫)97.10.2 明治物短編です。
表題作は相馬騒動明治版。「東京南町奉行」はよしのの結構好きな短編です。天保の改革で大弾圧繰り広げた南町奉行鳥居甲斐が「東京」に見たものは・・・というところ(『忍法黒白草紙』参照)。「天衣無縫」は、広沢暗殺事件で取り調べられる愛妾おかね対明治司法権力☆(『警視庁草紙』参照)。「首の座」は、オープニングでまずぞくぞくさせておいて『葉隠』なんかぢゃどーしようもない人間の最後の悪あがき。「斬奸状は馬車に乗って」は、もう少しで志士になるはずだったのになんかかけちがっちゃったある一生。「明治暗黒星」は、山風愛好家にはおなじみの星亨。
『伝馬町から今晩は』☆☆(河出文庫・山田風太郎コレクション)97.9.20 幕末物短編集でやんす☆明治物の書き方ですね
『警視庁草紙(上・下)』☆☆☆(河出書房文庫・ちくま文庫) よしのが読んだ明治物の中ではもっともゴージャスかつグレートな逸品。明治初年を舞台に元町奉行駒井相模守(「隅のご隠居」名乗ってるのはオルツィですかね)+おっちょこちょいな元同心千羽兵四郎が明治新政府の警察庁・川路大警視&元新撰組だったり朝敵仙台藩出身だったりする手だれの巡査達、および払い下げで私腹こやすわ狼藉乱暴元老たちにいやがらせしつつ、暗殺やら謀殺やら復讐などいろんな事件に巻き込まれます。ゲストキャラなみなさん方も定番漱石から東条ぱぱまで超豪華でございます。わき役陣も老掏摸「むささびの吉五郎」なんかもいい味出してます。陰謀やら大詐欺事件やら間抜け話やらてんこもりに楽しめる連作短編。推理味も濃淡はいってます。
『幻燈辻馬車』☆☆☆(河出書房文庫・ちくま文庫) 会津で同心やっていた干潟干兵衛は、西南の役で戦死した息子の忘れ形見をのっけて辻馬車屋をやっております。それが妙に自由党とかかわりあっちまい、警視庁の密偵やら会津をずたぼろにしつつある三島県令の手下やらとやりあう羽目になってしまうのですが、その孫が呼べば息子の幽霊が、息子の幽霊が呼べば会津落城の時に死んだ妻の亡霊が出て来るという明治の人々がてんこもりにでてくるだけではない連作短編集。平均的なまとまりやら統一性は『警視庁草紙』より上かも。おもしろかったっす。
『エドの舞踏会』☆(河出書房文庫・ちくま文庫) 明治元老の奥さん達をあつかった連作短編。「序曲・鹿鳴館への誘い」にはじまって「井上馨夫人」「伊藤博文夫人」「山県有朋夫人」「黒田清隆夫人」「森有礼夫人」「大隈重信夫人」「陸奥宗光夫人」「ル・ジャンドル夫人」「終曲・鹿鳴館の花」です。花柳界出身だったり、落魄した大名の息女だったりいろいろな境遇の夫人たちが、それぞれの状況の中で生きていく切片をちりばめた名品でやんす。人生気合いが肝心やねというのが読後感。
『地の果ての獄』☆(文芸春秋社・ちくま文庫) 親戚が幕末の江戸で西郷隆盛ヒミツ部隊御用盗の立役者だったばっかりに、維新後なにやら肩身の狭い思いをしなきゃなんないのがたるくて北海道は樺戸監獄の看守になった有馬クン。意のままに牢を抜ける「牢屋小僧」やらヘンな囚人に人斬り楽しくってしかたねえヘンな看守、アイヌに同化したおっさん、横車押しまくり国家権力自分のもんだと心得てやがるヤナ高官に振り回されつつ、なんだか成長していくです。明治初年監獄物長編としては原胤昭(元与力にして牧師となり、出獄者のサポートに尽力した人)が主人公の『明治十手架』もありますが、こっちの方が読み物としては面白いかも。
『明治バベルの塔──万朝報暗号戦──』☆☆(新芸術社・ちくま文庫) 短編3本入り。一番面白かったのが「牢屋の坊ちゃん」。日清戦争講話会談の時に清国代表を狙撃して無期をくらった小山六之助の手記から、往事の監獄体験を漱石『坊ちゃん』の文体で描いた物。他に表題作・明治版『人間臨終図鑑』かもしんない「いろは大王の火葬場」「四分割秋水伝」+レアな著者解題収録。外さない短編集です。
『魔群の通過──天狗党叙事詩』☆☆☆(文春文庫・ちくま文庫・廣済堂文庫) なにやら風雲急を告げるプレ幕末に、黄門様以来の水戸学ついだ尊皇アナーキストVSコンサバ幕府支持派の対立から内乱状態になってしまった水戸藩。山ん中に立てこもった尊皇派天狗党千人は、追いつめられたあげくに「京へ行って天子さまにおめにかかる」と電波少年みたいなことを思いついたばっかりに、気合いと運だけで信濃やらことさら寒くてつらい冬の山を大砲まで抱えて越えていきやすが・・・。山風の中では異色作という印象もありますが、テーマも山風の視点もむちゃむちゃ重いけど、少年の視点から描く語りが成功した広く本読みにお勧めできる傑作。
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