■電話を通じた匿名的な出会い



手動交換電話の場合、交換手との会話、混線などで、目的の相手との会話以外の要素も入っていたが、自動化されることで、そうしたノイズは消えていく。

一方、おしゃべり電話が一般化し、電話の個室化が進むことで、今度は個室と個室を、アイデンティティを明かさないままつなげていくサービスが登場する。
→パソコン通信、インターネットなど匿名コミュニケーションへ

=伝言ダイヤル=
1986年
 伝言ダイヤル通話サービス開始
 プッシュホンを使うことで、あらかじめ決めておいた連絡番号(6〜8桁)・暗証番号(4桁)で、特定の相手と連絡を取ることができる、というもの。30秒間のメッセージ録音が可能で、8時間保存された。メッセージの保存は10件まで。
 出先での連絡などの用途に向けたサービスだったが、連絡番号が「111111」で、暗証番号も「1111」など、誰でも思い付くような番号の組み合わせで、知らない者同士がやりとりする、独特の文化が生まれた。

 例:辻仁成『ピアニシモ』(1990年)
   伝言ダイヤルで知り合った男女の交流。

=ダイヤルQ2=
1989年
 東京でダイヤルQ2サービス開始(順次全国に拡大)
 
 情報サービス提供者の番号(最初が「0990」だったことから「Q2」という呼称になった)に利用者が電話をかけ、提供者が設定した情報料+通話料をNTTに支払うもの。

 留守番電話型:固定されたメッセージを流すもの(株式情報・占い・音楽情報など)
 パーティーライン型:最大6人で会話できるもの
 ツーショット型:1対1で会話するもの(主に男女の「出会い」など)

 情報提供サービスに参入する費用が低かったこと(業者側が支払うのは、回線使用料1150〜2350円+回収代行手数料17000円+情報量の9%)、料金の徴収は、通常の通話料と一緒にNTTが行うことから安心感があり、アダルトコンテンツを中心に一気に拡大する。
 91年には、提供番組は1万件を越え、1か月あたりの情報料が130億円に到達している。



□ダイヤルQ2の社会現象化

ダイヤルQ2は、利用者の急増によって社会現象となる。

親が知らない間に子どもがハマってしまい、いきなり100万円ちかい料金を請求される場合などが典型例として、新聞・雑誌などで取り上げられる。
最高で1分あたり100円の高額な利用料、アダルトコンテンツに容易に未成年が触れられること、売買春の場となることも問題視された。

=ダイヤルQ2/伝言ダイヤルに関係した主要な事件=

1991年 利用料金を苦にして57歳男性が自殺
     パーティーラインで知り合った中高生など女子の集団家出
1992年 ダイヤルQ2に夢中になった息子(18歳)を父親が殺害

暴行事件、売買春事件なども多発。
1998年 伝言ダイヤル殺人事件(携帯電話の有料伝言ダイヤルで知り合った女性に睡眠導入剤を飲ませ、金品を奪って逃走。放置された女性二人が凍死)

=NTTの対策=
1990年 回線ごとに、局に申し込むことで、ダイヤルQ2を使えないようにするオプションを設定
1992年 ツーショットタイプの高額なダイヤルQ2サービス提供者との契約更新の停止
     →業者独自の課金によるサービスに移行


□ダイヤルQ2の利用実態

1991年〜1992年の調査
「青年の意識と行動に関する調査」(青少年研究会)

=ダイヤルQ2の利用経験者=
 全体 18.5%
 男性 21.6%
 女性 16.5%

=利用者のうち、利用したことがある番組=
 男性
 アダルト番組 54.6%
 伝言ダイヤル 26.8%
 ツーショット 24.7%
 パーティーライン 13.4%

 女性
 占い 63.6%
 伝言ダイヤル 25.5%
 ツーショット 13.6%

=男女の非対称性=
・利用コンテンツの非対称性
 男性はアダルト番組、女性は占いに大きく偏っている
 
・「出会い系」利用の非対称性
 伝言ダイヤルを利用したことがある人
 男性 5.7%
 女性 4.2%

 ツーショットを利用したことがある人
 男性 5.3%
 女性 2.2%


□「作法」の生成

パーティーラインは、誰でも自由に参加できるもので、それだけに誰が話しているのか、誰が誰に話しかけているのかを特定することが難しい。

そのため、文字ベースのチャットのように、独特の技法がパーティーラインの作法として発達している。特にマニュアル化されているわけではなく、自然発生したものだが、どこのパーティーラインでも、だいたい共通していると言われている。

・パーティーラインに、新規メンバーが参加した時(ピンポン、と音がする)
 ←既にいるメンバーが「いらっしゃい」と挨拶する
  「ひとつの場所(空間)」としてイメージされていることを伺わせる表現
  #チャットなどでもこのような表現(会話する場を「部屋」と呼ぶなど)は非常に多い
  #本来「場所」をもたないはずのコミュニケーションの

・独特の挨拶
 初めまして→お初です。お初
 (自分が先に会話から抜ける時)→落ちます
 #このあたりは、文字でのチャットと共通

・会話のコツ
 呼びかけたい相手の名前を呼んでから会話。

・会話に参加しない人の扱い
 「モニター君」:ただ聞いている人
 「ピッピ君」:プッシュホンで「会話」する人
        「ピッ」だと「はい」、「ピッピ」だと「いいえ」など。
 いきなりあえぎだす謎男性:参加者全員で罵倒。電話を切らない場合は、プッシュホン連打を相手が切るまで続ける。

・参加者の把握
 誰がいるのかは、声を掛け合うことでしか確認できないために、新しく人が入って来た時などに、頻繁に今いる人、また今聞いてる人数を確認しあう。
 また、ハンドルネーム(パーティーライン上の名前)に、住んでいる地域名をつけて紹介しあう。

→「複数」で「知らない者同士」が「顔を合わせないまま」話すというパーティーラインのメディアとしての特質に応じて行動を様式化している。