■「電話」というコミュニケーションの特質


=直接話す場合と、電話の場合の違い=
直接会って話すコミュニケーションで共有できるもの
・声
・表情
・身ぶり
・空間

電話で共有できるもの
・声
・息づかい…など?
#息遣いは直接会って話す場合もある程度感じられるが、電話の方がはっきりと、すぐそばにいるように感じられる


=電話というコミュニケーションの特質=
1)応答の強要
 電話が鳴る、と、とりあえず、受けた側の状況に関わらず取る、ことが要求される。
2)匿名性
 電話が鳴った時には、誰からかかってきたか分からない。
3)空間/視覚の非共有
 時間は共有されているが、空間は共有されていない。
4)固有の電話儀礼
 例:相手の確認
 「もしもし*、〜さんのお宅ですか?」
 「はいそうです、どちらさまですか?」
 「〜と申します」
 * 電話導入直後は呼びかけとして「おいおい」などが使われていたが、不躾ということで、初代東京電話局長の大井才太郎が考案したという説。電話のために作られた造語。
 例:会話を終えるやりとり
 基本的には、かけた側が切る、と言われているが、タイミングを見計らう「気遣い」が要求される。

5)会話の強要
 電話の場合、話つづけていないと、相手がいるかどうかもわからなくなる。
 そのため、相づちなどを入れ続けるなど、「聞いている」ことを示しつづけなければならない。
 ただし、電話の特質に慣れた世代では、沈黙もコミュニケーションの一つとして許容する、という態度も見られる。

6)距離のパラドックス
 原則として、耳元で声を聞く、という体験になるために、一種の親密性が生まれる。耳元で声を聞く、という近しさがある一方、物理的には離れている、という矛盾がある。
例:
長電話をして2時間、3時間しゃべっていると、自分の所在がわからなくなるような不思議な錯覚に陥ることがある…(『メディアとしての電話』大学生へのインタビューから。p143)
=まとめ=
・かけた側/受けた側の非対称性
 「いたずら電話」に代表されるように、かける側は受ける側のプライベートに一方的に踏み込むことができる。
 1990年代後半から、番号通知サービスなどで、1)、2)が緩和され、受ける側が選択して取ることができるようになる。

・「声」だけのコミュニケーション
 「声」をリアルタイムで交わすことが出来るために、直接会うことの延長線上にとらえられがちな電話だが、直接会って話をするように、視線、表情や身ぶりなどを交えて、会話の順番などを調整することはできない。

・特異な経験の空間としての電話
距離が離れている(顔をあわせていない)一方、距離がない(相手の声や息遣いが耳元で聞こえる)という矛盾したコミュニケーションであるために、顔をあわせているコミュニケーションとは異なる経験がなされる。