国内でのIRC関連サービスの流れ



IRCという活動の領域の特徴

 ほぼリアルタイムで軽快にチャットを楽しむことができるIRC(Internet Relay Chat)は、1990年ごろから実験が行われ、インターネット利用の拡大につれて広がってきたとはいえ、日本のパソコンを中心に醸成されてきたネットワーク文化の中では、誰もがとりあえず使うWWWなどと違って、やや「敷居の高い」システムと位置付けることができる。

UNIXからWindowsやMac、BeOSなどたいていの環境で使えるとはいえ、専用のクライアントソフトを自分でインストールしなければならないし、サーバー設定やコマンドなどの情報もそれなりに調べなければならない。近年は薄れてきたものの、パワーユーザーが多いという印象はまだ強い。


「Dreamcast」ユーザーの参入とトラブルの発生

 1998年11月、(株)セガ・エンタープライゼスの次世代ゲーム機「Dreamcast」が発売された。このゲーム機は最初から33.6kのモデムを持ち、専門的な知識はまったくなくても、基本的なインターネット上の活動──ホームページ閲覧・電子メール、そしてIRCベースのチャットができることが最大の特徴だった。

 Dreamcastユーザーは、セガの用意したサーバー「irc.dricas.com」に接続していたが、 「irc.dricas.com」の接続制限数(サービス当初250、のちに1000)が接続を要求するDreamcastユーザーの数に対して少なく、混みあう時間帯には接続をはねられる場合もあったことや、ユーザーが「チャット」で他人の電話番号を公開し、いたずら電話を集中的に受けた被害者がセガにクレームをつけた事件をきっかけに、1999年5月から「irc.dricas.com」のサービスをセガがいったん休止させたことなどから、行き場を失ったDreamcastユーザーが「IRCNet」や「ReichaNet」など従来のIRCサーバーに接続して、いったんは混在が進みかけた。

 しかし、PCユーザーからみると非常識なDreamcastの発言や、さまざまな摩擦が頻発し、「Dreamcastユーザー」は、トラブルを起こしやすい、特異な振る舞い方をする集団として認知されてしまった。PCユーザーがDreamcastユーザーをセガが運営しているプロバイダからの参加を拒否する設定を行うことによって締め出す、またDreamcastユーザーが従来からあるチャンネルに入れないように、サーバーそのものの設定を変えてチャンネルを見えないようにする、などのトラブルに発展した。

 このような事態に陥った要因は、この問題を扱うホームページや掲示板などでは、

(1)大学生以上を中心とするパソコンを使う利用者に対して、「Dreamcast」を使う利用者は中高生などより若い世代が多く、またインターネットなどネットワーク文化にまったく経験がない者が多かった

(2)「Dreamcast」によるIRCの利用が、従来のパソコンから利用する場合とかなり異なったインターフェースになっており、使える機能等にも大幅な制限があったため、双方に誤解が生じやすくなっていた。

などとまとめられている。

 「Dreamcast」の登場で一時期初心者が急増したのだから、それでトラブルが目立つというのはある意味当然のことである。が、「Dreamcast」の問題はそのことにとどまらない。

 Dreamcastユーザーをめぐる「トラブル」をみていくと、ユーザー層の違いだけでなく「Dreamcast」の仕様とPCクライアントの仕様の違いや、インターネットの利用形態の違いから生まれた、IRCという経験の領域の枠組みのズレから行き違いが生じやすくなっていたこと、またそのために行き違いが拡大していったともとれる記述が多い。


(株)セガ・エンタープライゼス(当時)による対策

 このようなトラブルに対して、(株)セガ・エンタープライゼスは、「irc.dricas.com」の停止や、サービス時間の限定、また任意のチャンネルを作ることができるPCユーザーの接続禁止などで対応していた。

 2000年4月に配付と対応サービスがはじまった「DreamPassport3」では、「ぐるぐる温泉」などチャットしながら対戦できるゲームが増える一方、「Ch@btalk」(ICQなどページャーに近い、ユーザーが一対一でのメッセージを送りあうサービス)や「どこでもチャット」(同じホームページをみている者同士で行うチャット)など独自のチャットがメインとなっている。

 また、サービス利用時のユーザー確認を徹底し、チャットのログをとり、クレームがついた場合は事実関係を調査して場合によってはIDを抹消するなどの処分をとることを明記するなどしてユーザーの管理を強化する一方、よりWebとシームレスなユーザーインターフェースと、「チャンネル」の管理などをユーザーに意識させない独自のシステムを作り上げている。Dreamcastを持っていなくてもPCからPC版「Dreampassport3」でこれらのサービスを受けることが出来るが、Dreamcastユーザーと同じ制限を受けることになる。


現在の状況

 ある意味「DreamPassport3」以降の「Dreamcast」は、従来の「IRC」とは異なる、もはや共約不能なシステムに変容したと言えるだろう。そのような変化を背景に、IRCでのDreamcastユーザー問題は一応収束しているようにみえる。

 しかし、Dreamcastユーザーはなぜトラブル扱いされ、一つのネガティブなカテゴリーとして認識されてしまったか、主に(2)の観点から、Dreamcastユーザーを批判する文章や掲示板の書き込みが直接の対象としている「DreamPassport2」を中心に考えてみたい。