どのように差異は経験されたのか(2)

  ──Dreamcastユーザーの側から──

 Q5:名前が何人分もあるのに、話しかけても誰も返事をしてくれません。
 A5:今は席を立っているか、お留守です。会議室によっては接続を繋いだままにして部屋を維持している所もあります。無視されているわけでありませんのでご安心を。
 (「ドリキャスIRC講座」 http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Theater/2793/dricas/dc_chat.html)  

 ・人探し/追いかける/追う
  意味:WEB TVや、PCにある機能で、ニックネームからその人が今何処の部屋にいるかとかが分る。
  かなり便利な機能といえる。それを悪用すれば、簡単にストーカー的な行為も出来る、間違われないようにしよう、そして…
  性質の悪い荒らし、即落ち者は、これで追いかけて文句を言うか…シバクと言う人もいる。
(「チャットでネット(謎)」 http://www.angels-soul.com/net.html

 
 

PCユーザーのさまざまな慣習

 では、Dreamcastユーザーの側からは、PCユーザーとの差異はどのように経験されたのだろうか。ReichaNetのDreamcastユーザー向けにPCユーザー主体のサーバーでの振る舞い方を解説した資料「DreamCastのIRCサーバーでIRCをご利用されてきた皆様へ」などからまとめてみよう。

●nickの変更
「xx_away」「xx_cook」「xx_FURO」など主にマシンの前を離れる際にそれを示すnickに変更する慣習が一部にある。
またサーバーに接続しなおす際などに、nickをいくつか使い分けている人もいる。

●「常駐」
NTTのテレホーダイやフレッツISDNなど定額サービスの契約者、また大学や企業など専用線からの接続で利用しているユーザーには、IRCにとりあえず接続しておいて、手があいたときだけIRCで遊ぶという使い方をする人々が多い。

●複数のチャンネルへの参加
PCのIRCクライアントでは複数のチャンネルに参加することが標準的な仕様であり、チャンネルは常時盛り上がるわけでもないので、複数のチャンネルに平行して参加するのユーザーが圧倒的に多い。

これらの慣習は、Dreamcastユーザーからみた場合、PCユーザーにとってDreamcastユーザーのいくつかの慣習が奇妙なものに見えたように、Dreamcastユーザーにはいたずらに混乱を招く行為として映る。

DreamcastユーザーからみたPCユーザーの慣習

●相手が誰だかわからなくなる(nickの変更)

nickの変更をされると、その変更が行われたことは特にDreamPassport2には通知されないため、いきなり出てきた相手に話しかけられていると認識してしまい、相手が誰だか混乱してしまう。nickはDreamPassport2で相手を同定できる唯一の手段であり、それを動かされることは、相手への不信感も招きかねない。

●いるのに反応してくれない(「常駐」・複数のチャンネルへの参加)

ダイヤルアップが基本で、定額サービスを契約するほどではないライトユーザーが多いDCユーザーにとっては、「つないでいるのにいない」という感覚は理解しにくい。彼らにとっては、つないでいる時間はすべて電話代などの課金の対象なのである。
そのため、「常駐」や「かけもち」(もっと強く「盗み聞き」「覗き」と表現する場合もあるらしい)は、「いるのに話しかけてくれない」「話さないのにずっと見ていて気持ちが悪い」「一所懸命話しているのにこちらに集中してくれない」といった疎外感や不快感を与えてしまう。

チャンネルの管理機能や情報蒐集機能のギャップ

PCユーザーが利用できて、Dreamcastユーザーが利用できない機能の落差が大きいことも、両者のギャップの大きな要因となっている。

     *はDreamPassport3(2000年4月から配付)でサポートされている。

●「whois」*(上記引用で言われている「人探し」)

コミュニティによって温度差はあるものの、「whois」コマンドをかけることは、PCユーザーではごく当たり前の行為である。IPアドレスは互いに見えているのが当たり前だし、もし自分の活動の痕跡をあまり知られたくなければ、チャンネルをシークレットモードに設定すればいい。
しかし、Dreamcastユーザーには自分がどこのプロバイダを使っているか、どこのアクセスポイントからつないでいるか言い当てられることは、Dreamcastユーザー側からは相手のそうした情報が見えない以上、アンフェアな、気味の悪いことであり、「ストーカー」と映る場合もある。

●「priv」*(一対一で話しかけること)

DreamPassport2までは、一対一で話しかける「プライベート・メッセージ」は見ることはできても返すことはできなかった。プライベート・メッセージで延々PCユーザーがDreamcastユーザーを罵倒するといったことも出来たと指摘されている。()

●チャンネル新設やキックなどオペレーター権限が必要な操作

チャンネルの新設やモードの設定ができないために、そうした活動がしたくなったらDreamcastユーザーはPCユーザーに依頼するしかない。
また、トラブルがあったときチャンネルから相手をけり出せるPCユーザーは圧倒的に強い。逆にPCユーザーからみれば、蹴り返せすことができないDCユーザーは心理的にきわめて蹴りやすい相手となってしまう。

 

このような機能と権限のズレは、DreamcastユーザーとPCユーザーの間に非対称な関係を生み出した。クライアントの機能の違いが、DreamcastユーザーがPCユーザーに依存し、PCユーザーはDreamcastユーザーを軽視するといった事態を引き起こし、両者の間の齟齬を大きくしていったとも言える。