結論



DreamcastユーザーとPCユーザーのトラブルの原因

 Dreamcastユーザーをめぐるトラブルは、ユーザー層のズレに、互いに権限を委譲しあい、IPアドレスや参加チャンネル、クライアント情報なども見せあいながら公共性を構築していこうとするIRCの仕様と、そのあたりの機能を捨てることによってトラブルを減らそうとしたDreamPassport2の仕様の違いが重なったために生じたものだと言える。

 さらに、振る舞いが異なる人々が、集団としてカテゴリー化しうるほど急激に固まって現れたために、特殊なクライアントの形に応じて独自の文化を醸成しつつあったDreamcastユーザーは、PCユーザーの側に特異な振る舞いをする蛮族として認識されてしまったと言える。逆にいえばクライアントの機能やデザインの違いが経験の枠組みのズレを生み、それがジャーゴンや適切な振る舞い方なるものの生成を左右していくのである。

今後の展望:ディジタル・デバイドは専用端末で解消されるのか?

 「Dreamcast」のトラブルは「DreamPassport3」によるユニークなサービスというDreamcastユーザーの受け皿が整備されて棲み分けが定着し、他のIRCサーバーで「集団」として認識されるほど目立たなくなったことで、終息している。

 しかしインターネット端末の多様化そのものは急速に進み、PCという枠にとどまらないインターネットに関連したサービスの経験が多様化していくこと自体は拡大している。

 Dreamcast・PlayStation2などゲーム機、iモードに代表される携帯電話・PHS、またWebTVなどの専用端末も、いわゆる「ブロードバンド時代」をにらんで次々開発が進んでいる。

 このようなサービスは、いずれも機能を特化した製品・サービスを企業が提供するというかたちをとっているが、仕様をなるべく統一してサービスに普遍性をもたせようとしていたインターネットを、「わかりやすく」するために普遍性を崩す方向に、ネットワークをブラックボックス化する方向に向かっているとも言える。

 このような動きによって、これまでリテラシーやコストの問題からインターネットを使わなかった層(女性・老人・子ども)がインターネットに流入し、ユーザー層の多様化が進むのは間違いない。

 しかし、この多様化は、単純にインターネットの拡大ととることはできない。おそらく多様なものが一つの「インターネット」という平面に流れ込み共存するというより、棲み分けが細分化される方向にいく可能性が高い。ディジタル・デバイドは解消されるのではなく、境界線が無数に引かれ直すのである。

 もしそうであるなら、難しいことを排除して「わかりやすく」する工夫だけでなく、必要なときに「わかりやすさ」の外側にある技術的な背景なり、文化的背景の基礎知識なりにアクセスできるような橋渡しが必要なのではないだろうか。